ショートタイム

2008.11.02 TEXT

グロ話。異物入っています。平気な方のみどうぞ。






 きっかけはいつも似たようなことだと思う。なにがどうなって、ということは、だからあんまり覚えていない。
「うるさい黙れ」
 話しかけるオレを無視してずんずん行っちまう角都はホントに憎たらしい。以前ふてくされてずっと道端に座っていたら、角都の心臓の一人が迎えに来てくれて、嬉しくてそいつと手をつないで角都に追いついたら文字通り半殺しにされた。どうせ死なねえから構わないけど、その心臓がオレを庇おうとオロオロしてたので、そいつには悪いと思ったのだった。以来、そんなときには心臓を先に帰し、後で追いついてから殴られるようにしている。
 考えてみれば滑稽なことかもしれない。オレは角都に構ってもらいたいだけなんだが、角都は無視するかキレるかでひどく極端なのだ。そしてオレは無視されるならとことん殴られたいタイプときている。
「そんな薄汚ねえカネのために命はってんのかよ、バッカじゃねー。てめーの命はその紙切れと等価値ってわけだな。安いヤローだ」
 確かにキレた角都は凄い。マジで。



 珍しいことに今日の角都はスケベだった。オレはこってり殴られた後、縛られた両手首で木の枝からぶら下げられ、奴の触手に散々なぶられた。こういうことは滅多にない。オレはガミガミ言いながら、けっこう堪能した。当然それは角都にバレた。
「またイくのか。こんなものがよほどいいらしいな」
「ああ…少なくともてめーのナニよりはずっといいぜェ」
 実際には角都に入れられたことは一度だけ、それもほんのわずかな時間だった。オレとしてはいつでも再挑戦オーケーだが角都が仕掛けてこない。今日のノリは悪くないんじゃないだろうか、挑発してその気にさせてやろう、とオレは考えた。
「で、てめーのはションベン以外の役に立つのかよ?まーもうトシだもんな、使えなくっても嘆くこたぁねぇぜ、角都」
 せっかく感じ悪く言ってやったのに、肝心の角都はそっぽを向いて何かを見ている。草むらからのぞいている、黒っぽい斑の玉だ。何だかわからずそれと角都の顔を見比べていたら、角都がそれを拾ってきた。硬化した手に握られているそれは何匹もの蛇のかたまりだった。冬眠前につるんでるアレだ。
 角都がそれをほぐすのを見ながらオレは本気で暴れ始めた。



 暴れるといっても使えるのは脚だけだったし、それも中途半端に下ろされたズボンでろくに動かせず、角都は片腕だけで簡単にオレを拘束した。浅黒い手が物の寸法を測るように腹を触診していく。
「…よせよ」
 こんなときの角都に何を言っても無駄だとわかっていながらつい声が出る。うっかりまた何か口走らないよう歯を食いしばり、背筋と腹筋でできるだけの抵抗をしてみたが、角都は気にするふうもなく、硬化した指をオレの鳩尾にめりこませてきた。新しく開かれた腹の口から外気とともに、ずるり、と生き物が押しこまれる。何かが軋むような音が聞こえたが、それはオレの押し殺した悲鳴だったと息が切れてから気がついた。



 内臓の間を長い異物が動き回る感触は鮮烈だった。我慢しようとしたが、すぐにオレは耐えきれなくなり嘔吐した。臓器が傷ついたのか、吐瀉物は真赤だ。
「かっ、かっ」
 オレは角都を止めようとしたが、奴は容赦なくもう一匹をねじこんできた。ずるる、ずるる、ざらり、とオレの中で二匹がからむ。体内が冷たくなり呼吸が苦しい。気持ち悪すぎてどうすれば良いのかわからない。角都はそばにいるんだろうか。オレを見ているんだろうか。どんな顔で見ているんだろうか。
「もう、やめっ、やめっ、も、やめっ」
 これが戦いの中ならオレはクールに「ハァー痛って」で終わりにする。勝負の前では不快なんて意味がないからだ。けど、今オレにこんなことをしているのは角都で、オレは弱みを見せてもいいのだった。誇りも何もなく、オレは哀願した。情けないことに涙まで出てきたが、そんなことに構っていられなかった。
「し、に、てえっ」
「ああ殺してやる。いつかな」



 オレが哀願もできなくなって、ただダラッとぶら下がるようになると、さすがにつまらなくなったのか角都は触手で蛇を引っぱり出してくれた。角都にとって、こんなことは遊びに過ぎない。出てきた蛇はどちらかというと小型でオレは拍子抜けしたが、やられた側として文句は言ってやらなければと思った。
「毒蛇じゃねーか。ほんっとにひでーヤローだなてめーは」
 終わってみればオレの鳩尾に穴が一つあいているだけの話で、そうなってみると先ほどの大騒ぎが恥ずかしくなってくる。
「満足したろう」
「ハァ?満足したのはてめーだろ。とんでもねえ変態趣味だな、キモいヤローだとは思ってたがそこまでとは知らなかったぜ」
 クソジジイがと続けながら、オレはふと角都の手を見た。まださっきの蛇の奴らがそこにいる。
「おい、そいつら捨てろよ。遊びは終わったんだろ」
 オレは枝からぶらさがったまま、頭上で堅く縛られた自分の手首を見る。
「角都!そいつら捨ててオレをほどけって!コラ!」
 もしかしたら文句をつけるタイミングを間違えたのかもしれない。オレは相変わらずズボンを膝に引っかけたトンマな格好でミノムシ状態。そして角都は蛇をまだ捨てていない。


 












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