オイド

2008.11.15 TEXT

表「ハキダメ」の、「では出かけるか」「けちんぼ」の後です。叩いています。





 くそ、と珍しく相棒が毒づいたので、オレは角都がいる方を向いた。なに?と訊いたら、書き損じた、と短く返された。暗がりで呪符を書くことが間違えてんじゃねーか、と思ったけど、不機嫌そうだったから言わずにいた。
 外の木枯らしは洞窟の中までは吹き込まないが、それでも岩肌から降りてくる冷気はじわじわと体にしみてくる。オレは焚火をしたくて、それも何度も言ったんだけど、相手から見えるだろうとそのたびに軽くボコられた。そりゃそうだ。オレたちが遠くから見張ってる傭兵集団は、谷間で大きな火を焚いていてなんだか盛り上がっている様子まで丸見えだ。ってことはこっちで焚火したら同じことになる。わかってるけど、こう冷えるとちょっとぐらいいいじゃねーかっつー気になる。



 月がないと夜は暗い。星明りというあいまいなやつでかろうじて物の形がわかるぐらいだ。角都の近くには白い紙切れが点々と散らばっている。傭兵集団の野営地周りにトラップを張り巡らせるための小道具として、奴は起爆札を書いているのだった。
 オレたちの仕事だった、暁の情報を切り売りしていた情報屋の特定と抹殺は、すぐに済んだ。普通ならこれで帰れたはずなんだが、角都は仕事中に情報屋を弄っていろいろ聞きだし、その結果オレたちはこんな寒い中で火も焚かずに洞窟にこもって震えなきゃなんなくなった。
 なんでもあの集団の中に思いがけない大物が混じっているらしい。しかし人相がわからない。なので特殊な起爆札を使うことで、起爆を事前に察知できない雑魚を削り、残った奴を相手にするという計画だ。キレイに殺すんなら贄にしてもいいと言われたので、オレにとっても悪い話じゃない。だがそれにしても寒い。



 また角都が、くそ、と言った。オレは手探りで這い寄り、角都の手元を見てみた。
「考えてみりゃいじましい作業だよな、それ。面倒くさくねえ?」
「戦闘の効率化を図れる、結果的には楽な方法だ…おい札を踏むな」
「おーおー、あいつらすっげ盛り上がってるぜ。捕虜の拷問やってら、えげつないやつ」
「こちらには好都合だな」
 手を擦り合わせる音がした。これだけ離れていればチャクラを使ったって気づかれないだろうが、戦闘を控えた角都は無駄遣いをしない。絶対に。
「こう暗くちゃ札なんか書けねえだろ」
「この程度なら問題ない」
 じゃあ何がマズイんだよと聞き返したら、角都はちょっと黙ってからオレを呼んだ。そばまで寄って行くと、角都の手がオレのコートを探って前を開けてきた。おお、と思ったが、勘違いして殴られるのもなんだからちゃんと確かめた。
「なんだおい、おめーエッチなことしてぇのか」
「ああそうだ」



 いつもに似合わないあっさりとした肯定にオレは、ん?となったけど、角都の手がどんどんオレの体をさわり始めたので、気にしないことにして相手の胡坐に座り首に腕を回した。角都があけすけに誘ってくるなんて今までなかったことだ。オレの方はしょっちゅう誘ってはぴしゃりと断られている。いつもの仕返しに断ってやってもいいけどオレは心が広いから許してやることにした。
 角都の手はホントに冷たくて、オレの体はびくびく震えた。でもこういうのも悪くない。闇の中でニヤニヤしながらオレは角都の動きを待った。誘ってきた方が奉仕するのは当然のことだ。



「おい…なんか、やること違くねえ?」
「そうか。俺はお前に触れていればそれでいいがな」
「そりゃ、まー、悪かねえけど。でもよ…おめーなんか別のことしてねえ?」
「いや」
「なんで手ェ出したり入れたりすんだよ。冷てーじゃねーか」
「気にするな。お前の体は実にいい。こうしているだけでも充分だ」
「…へっ、そうかよ……なあ、もっと下まで触ってもいいんだぜぇ?」



 満足そうな声で角都が「さあ終わった」と言い、ご丁寧にもオレのコートの前をパッチンパッチンととめた上で胡坐からどかした時、遅まきながらオレは自分が利用されていたことを知ったのだった。角都とオレの周りは起爆札だらけになっていた。よくもそんなに、と驚くほどの枚数だ。こんなに使われたら、賞金首のヤローも含めてあいつら全滅するんじゃないだろうか。
 オレをカイロ代わりに使った男は乾いた札をいそいそと拾い集め、袖の中に収めている。なんだかものすごく悔しい。奴の手をあっためているだけとも知らず、オレは浮かれて奴のマスク越しに一回チューまでしていた。軽いやつだったけどチューはチューだ。あれの見返りが欲しい。でないと不死のオレが恥ずかしくて死にそうだ。



 エッチなことだって言ったじゃねーかよクソヤローひとの体で勝手にあったまりやがって、とブツブツ怒っていると、また角都に呼ばれた。なんでこいつは自分からオレんとこに来ないんだろう。のこのこ呼ばれるオレもオレだけど。
「…なんだよ」
「そう拗ねるな。これからたっぷりしてやる」
 角都の手がオレを引き寄せ、自分の膝の上にうつぶせにした。無造作にコートを捲り、ズボンを引き下げる。寒気にさらされサブイボが立った美しい(であろう)オレの尻を角都は何度か撫で、そのあと平手でパンと打った。
「オイオイ!何してんだよ、角都ゥ!いてぇぞコラ!」
「スパンキングだ。とてもエロティックな大人の娯楽だぞ」
「嘘つけ!オレのことバカにしやがって、いてえって!」
「無知なお前にはわからんだろうが、スパンキングを主題にした『女中の臀』という官能小説もある」
「めいどのおいど?ダジャレかましてんじゃねー、っつーか意味わかんねーし!」
「ガキには所詮無縁の遊びということだな…」



 傭兵集団もかなりキモいことしてたが、散々ぶったあとの相棒の尻たぶに掌をあてて暖をとっていた角都の方がよっぽど変態だと思う。そんな野郎に見張られてるなんて知ったら、奴らは泣きながら逃げて行っただろう。ぶたれているうちにおっ勃てたオレもわけわかんねーけどな。


 















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