悪趣味

2008.12.03 TEXT

考えたらウチの二人はまだ合体していなかったのでした。なので、とりあえず合体の話です。





 先ほどから角都は、地図を手にあたりを注意深く歩き回っていた。点在する窪地の一つを情報屋が取引場所として指定してきた。窪地に置かれた情報と引き換えに代金をそこに置いておけと言うのである。
 自分を信用しているようでそうではないこのやり方が、角都には不快だった。有能な相手でなかったら始末しているところだ。情報屋は角都と直接顔を合わせることを避けているのだが、支払いがきちんとされるかどうか今もどこからか見張っているのに違いない。警戒しているのだろう。怯えるぐらいなら最初から飛段に色目など使わなければ良いのだ、と角都は考えた。



 カルスト地形という単語を飛段は覚えられなかったが、このあたりにはアルカリ泉が湧いているということはわかった。あったかいやつじゃなくて冷たいやつが地底を流れているところだ、と考えて身震いする。露出した石灰岩が汚れた雪のように見える、寒い日だった。
 探し当てた情報の内容を確認し、指定の場所に金を隠している角都を眺めるのに飽きた飛段は、自分も足元の窪地を覗いてみた。地底に届く裂け目が地上のあちこちに開いている。地面に腹ばいになり、裂け目に頭を入れてみると遠い水の音が反響して耳に届き、試しに出してみた声もおんおんと反響した。喜んだ飛段は大きく開いた両脚にぶら下がるようにして上半身を地中にもぐり込ませた。身のはるか下からの空気を顔で受け止めると、高みを飛んでいるような浮遊感があった。
 さらにずるりと身をのめらせた時、何かが挟まるような妙な感じがした。後ろ向きに穴から這い出そうとしたが、手足を突っ張っても体の躯幹がほとんど動かない。背負っている鎌が岩に引っ掛かったと飛段は悟り、ゲラゲラ笑いだした。
「角都ゥ、おい、引っかかっちまった!ちょっと手ェ貸せや!」
 相棒がすぐそばにいるのはわかっていた。馴染みの気配が自分の脚の間にしゃがみ、コートの裾をつかむ。飛段は引き上げられるのを待ったが、そこからの角都は飛段の予想とは違う行動をとり始めた。



 初めは、情報屋に見せつけるための、ちょっとした趣向のつもりだった。
 角都は相棒のコートを捲りあげると鎌につながるワイヤーを押し上げ、腹まわりの布をほどいてズボンを無造作に引き下ろした。オイ!と飛段がわめいて暴れたが、膝下のガードまで下ろされたズボンに動きを封じられた脚は最終的に行儀よく揃い、健康的な筋肉に包まれた臀部から太腿を角都にさらした。
「なにしやがるクソジジイ!ふざけんじゃねー呪うぞゴルァ!」
「よく吠えるな、飛段。そのぐらい啼きもいいといいが」
「ナキってなんだナキって!バカ言ってねーでさっさと引き上げろってェ!ヤるならヤるでちゃんと、ってきーてんのか角都ゥ!」
 見えない相手に、閉じた太腿の間に手を差し込まれ、飛段は息をのんだ。手はゆるゆると行きつ戻りつし、やがて明確な意思を持って飛段自身を握った。反射的に身をよじった飛段は相手の手をきつく挟んでしまい、脚を震わせた。
「ふん、ずいぶん積極的だな」
「てめェ……」
 力を入れれば太腿で相手の手を締め付け、抜けば抜いたでいいようにされる。混乱した飛段は、とりあえず手から逃れようと浮かせた腰を左右にくねらせた。情報屋の居場所のあたりをつけた角都は、そちらに見せつけるように、腰の揺れに合わせて陰茎を握った手を柔らかく動かした。さして間をおかずにぬるつく体液が角都の手を濡らす。反応が早いのは体の自由がきかないためか、と角都は考えたが、そう言えばそもそも飛段は苦痛を喜ぶ性質なのだった。



 決して追い上げない生殺しのような愛撫を執拗に続ける角都の前で、無意識なものか、うつぶせの飛段の股がゆるく開いた。行為を促しているのだろうと角都は考え、褒美に握ったものの先端を強くつまんでやると、汗ばんだ尻がひくひくと震えた。濡れた指で桃色に染まった尻の間をなぞり、それをそのまま中に押し入れる。不思議に不潔感はなく、自分も相当いかれているなと角都は口角を上げた。指を増やして内部をしばらく探ると、穴の中の飛段が切羽詰まった声を漏らした。
 ふいに飽き足りなくなった角都は指を抜き、挟まっていた鎌を岩から力任せに外すと、宙吊りの飛段を引き起こして自分の胡坐に横抱きにした。留め金がはじける勢いでコートを開いてズボンの前を下げる。荷物のように手荒く抱きこまれた飛段は、相棒の首に顔を押し当てて息だけで笑い、やっとその気になったかよ、と言った。
「…テメーおせーんだよ、角都」



 行為を終えると飛段はひどく眠たがり、身支度もそこそこにうつらうつらし始めた。いつもなら殴って覚醒させる角都も動く気になれず、とりあえず相棒を抱いたままコートの前をかきあわせた。おかげで寒気の中でも腹だけは暖かかった。
 途中から無視していた情報屋のことを考え、角都は苦く笑った。行為を見られたのは構わないが、飛段に懸想していた男のことだから、今後角都との取引を打ち切るかもしれない。上質な情報源を惜しみながら、相手がひそんでいると思われる高台に目を向けた角都は眉を上げた。まさにその場所に、情報屋本人が隠れるそぶりもなく立っていたからである。
 髭の大男である情報屋は、角都と目が合うと親しげに片手をあげ、岩場の奥へ消えていった。まるで自分に挨拶をするためわざわざ帰る時間を遅らせていたような様子を見て、角都はまず呆気にとられ、その後じわじわと理解した。嫌がらせだったのにとんだ逆効果だったらしい、あれは飛段が自分にいろいろされるさまを見て喜んでいたのだ、なんて悪趣味な男だろう、それにしても最後の挨拶はどういうつもりだ、俺を仲間とでも思ったのだろうか、好きな者をいたぶって楽しむ趣味を持つ同好の士だとでも?
「違うぞ、俺はそんな人間ではない…そんな悪趣味な人間では」
 呟いた言葉は自分自身にさえも薄っぺらく聞こえた。慌てて角都は重々しく咳払いをし、吐いたばかりの言葉を寒空に吹き散らかした。













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